- CITY LIGHTSとサメ共のこと
- 子どもの頃に観たジョーズという映画が忘れられない。
巨大で獰猛な人喰いザメに恐怖で震えた。
大人になってから、人の心の海を泳ぐサメを見つけた。
黄色い潜水艦に乗った愉快で優しい仲間たちを狙う、凶暴なサメ共。
この世界はファンファーレと熱狂の中。
この街を歩けば、酔っぱらってからから走り続けるハムスターが腐ったひまわりの種を投げつけてくる。
蝋人形のつけた安物の香水に誘われて飛び跳ねるキョンシーたち。
家出中のシンデレラに、着色料たっぷりのアイスキャンディーを売りつけるために爆音を鳴らしながら走るトラック。
ベストファザー賞で讃えられた少年たちはランナーズハイによる幻覚の中、テロリストに虹色のライトをあてようとして失敗。
鳴りやまない拍手。
終わらない宴。
サメ共は笑いが止まらない。
サメ共は欲望のままに世界を喰い荒らす。
人々はサメ共に少しずその身体を齧り取られている事実を、黙認するか、居酒屋やクラブのざわめきでかき消すか、お気に入りのアップリケで隠す。
変なおじさんとオッパッピーを踊ったり、草原で白いボールを追いかけたり、雪原を赤い板で滑り降りたり、ネズミの国でポップコーンを頬ばったり、車窓に流れる世界遺産をパシャパシャと写真に撮りながら日々を過ごし、忘却の空の下で揺らめいている。
サメ。
君は僕なんだ。ただあの妖艶な白い太ももが欲しかった。
あの日の憧れ。
オルゴールから小さな恋のメロディーが流れる原っぱで、かごの中のいちごに手を延ばしたところまではよかったのだけれど、食べ続けているうちに飽きて、白けてしまった後、嫌われて、恐怖に狂ってしまったサメ。
「お前は俺に、燕の巣をとってくるために生まれたんだよ 。命をかけて働け。」
ギリギリと歯ぎしりをしながらお前は言い放つ。
その歯は、エイリアンのようにしつこく再生し続ける。
サメ共は終わらないパーティーの狂騒と恍惚の中、テキーラを煽って街を泳ぎ回る。
あの夏の北斗七星も、冬のオリオン座も、強烈なネオンと有害なスモッグで見えなくなった。
公園ではシカト、教室ではいじめ、オフィスでは暴言で澄んだ心を破壊し、工場の中では奴隷を操り、アフリカ産のダイヤモンドを買い占め、自由を超えて少女を犯し、丸腰の僧侶たちをマシンガンで打ち倒し、地下鉄に毒ガスを、アフガニスタンに爆弾をまいた後、ついに絶望のきのこ雲と死の灰で人々の心をどんよりと暗く沈ませた。
街の灯りの中を泳ぐサメ共の話。
2012.01.22 21:55